前話「The Beginning 1」

~2013年8月某日 ぴかりが丘の川原~

 「大丈夫?怪我してない?」

目が覚めたら、私はもう棺桶のような鏡の中から解放されていた。

どうやら戦いは私が気絶してしまった間に終わっていたようだ。

あの蜘蛛の糸を出した『謎の生命体』も、私から生まれた怪物『サイアーク』もいなかった。

力を吸い取られて、歩くこともままならなかった私。

そして、「お父様」の任を最初から全うできず、不安になりつつもあった。

だが、その様子を見ていた「彼女」はすかさず棒状の武器を私の体にかざし、光を解き放つ。

すると、忽ち体が言うことを聞くようになる。

恐らくは、身体を回復する魔術の類なのだろう。 

私も「神魔大戦」の時には数え切れないほど活用したスキルだ。

『彼女』なら、きっと「神魔大戦」でも一線級の戦士として戦えたかもしれない。

---助けてくれて、どうもありがとう。

「神魔大戦」の時は私が数え切れないほど「後輩」にかけられた言葉を、見ず知らずの赤の他人に言い放つ。

「無事で良かった。『ブラックファング』にサイアークにされちゃった人は、怪我程度じゃ済まない人もたくさんいたから。」

『ブラックファング』…そうか、それが私を襲った蜘蛛の糸を出す『謎の生命体』の名前なのか。

そして、あいつに殺された人間がたくさんいると。

---貴方は何者?

「私は、貴方のことも教えてほしいな。貴方、人間じゃない・・・よね?」

---貴方は何故、「私」が人間じゃないと思った?「私」のことが知りたいんだ?

「貴方は私の友達の妖精さんの『リボン』と同じ雰囲気だから、何となく妖精さんと同じような存在に感じたの♪
そして、助けてあげられたけど、浮かない顔してるのも気になっちゃって。」


出で立ちや雰囲気だけで、私が「人間」ではないことがバレてしまっているだと?

これは困った。

『彼女』がもし「魔」であるのならば、私が「神造調査員」だと知って襲って来る可能性がある。

「魔」にとって私達兵器の存在は、邪魔でしかないから。

『お父様』はこの場合どう対応しろとは言っていなかった。

話してもいいのか?

だがもし戦いになれば私は勝てる気がしない。

今は、ただの人間同等の力しかないのだから。

僅かな「神力」こそ残っているものの、それを暴力に還元するのも気が引ける。


「どうしたの?私のこと、警戒してるのかな?」

また私の心を読み取るような発言をする。

『彼女』はサイコメトラーなのか?

それもかなりのレベルの高さだ。

魔術も使えサイコメトリーも使えるとなると、それはもう「勇者」レベルの実力者なのかもしれない。

「じゃあ私もとびっきりの秘密打ち明けるから!それでおあいこ!」

言って『彼女』は深呼吸すると、全身が光を包む。

すると、先程までの天使のような姿とは全く別人の姿に変貌した。

まさか、「トランス」まで出来るとは!

「神魔大戦」で活躍した『勇者アブソーブ』のような多芸っぷりだ。


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「これがとっておきの秘密。
本当は誰にも正体見せちゃダメなんだけど、特別に!
私、『大森ゆうこ』
大親友のお友達には『ゆうゆう』って呼ばれてるかな~。
貴方のお名前は?」


戸惑いこそしたものの、不思議と警戒心は生まれなかった。

むしろ、ここまで自分の身の内を明かしているんだ。

「魔」はわざわざ騙すといった姑息なことをして、心を開かせるようなことはしない。

『彼女』は信頼に値するのかもしれない。

「地球」についての情報も知りたいところだし、私のことを話してみよう。

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---『グランシャリオ』。

「『グランシャリオ』ちゃん!外人さんみたいな名前だね」

---正確には、『世界の調停者-ワールドストッパー-グランシャリオ・ザ・ザンバイン』という名前だ。
あ、いや、もう調停者ではないのだった。
だから、『グランシャリオ・ザ・ザンバイン』と言う。


「長い名前だね~。『シャリオ』ちゃんって呼んでもいいかな?」

---『シャリオ』か。初めて呼称された名前だ。
それが呼びやすいなら、好きにしろ。


「じゃあ『シャリオ』ちゃん。
色々とお話聞きたいし、今から大使館に行かない?
こんな夜中に女の子二人で立ち話は目立っちゃうからね。」


女の子…そうか。私は女という扱いなのか。

兵器である私に性別なんて概念は本来存在しない。

『お父様』は「革命とは乙女がすべきこと」という価値観があるようで、私を女性寄りのデザインにしたという話は聞いたことがあるが、今の『大森ゆうこ』の反応を見ると、それは正しい話なのだろう。

「あ、こんな遅い時間だけど付いてきてもらって大丈夫かな?
保護者の方とか心配しない?」

---保護者?何だそれは?

「その反応だったら大丈夫そう・・・かな?じゃあ、行こっか♪」

『彼女』こと『大森ゆうこ』に連れられ、私はとある場所に連れて行かれた。

どうやら私はまだ「人間」としての常識が欠如しているようだ。要勉強だな。

~ぴかりが丘 ブルースカイ王国大使館~

数十分ほど歩いてたどり着いたのは、 大使館と呼ばれる大きな洋館であった。

「『ゆうこ』、お疲れ様。」

「お帰りなさいですわ」

私達がこの洋館に入って早々、「青い髪の長身の男」が出迎えた。

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出で立ちだけで分かる。彼は「神」だ。

『お父様』のような、大きな「神力」を持っていることも伺える。

隣には、人間とは明らかに異なる生命体もいる。

Ribbon

多分、先ほど『大森ゆうこ』が話していた『妖精』という存在なのだろう。

大使館に入ると大きなテーブルと2人がけの椅子が配置されており、『大森ゆうこ』に導かれるようにその椅子に座り、私の隣には『大森ゆうこ』が座った。

向かい側には、『神』が座り、その横では『妖精』が宙を浮いていた。 

「『神様』、『ブラックファング』の攻撃もより苛烈になってきています。
また犠牲者が出ないか心配だわ」


「ああ。僕も『ブラックファング』の凶悪さはそろそろ見過ごせないと感じている所だ。
世界各地の戦力的に余裕のある場所から協力できないか掛け合ってみるよ。
・・・ところで、『ゆうこ』。
さっき[クロスミラールーム]から状況は見ていたが、『彼女』をどうするつもりだい?」


「『ゆうこ』。誰ですのこの子?」


「リボン、この子はさっき助けた子なんだ。
ちょっと人間とは違う雰囲気だったから、何か[幻影帝国]のこととか知ってるかなぁって思って。」


『リボン』…やはり、先ほど話していた「妖精」のことか。

「確かに、『彼女』は人間ではないね。そして、この世界の存在でもない。
別の世界から来た人間の形をした兵器と言ったところかい?」


---さすが『神』。私のことはお見通しか。

「『ブルー様』が名乗らずとも『神様』だと分かってしまうなんて!すごいですわ!」


---君のことは分かり兼ねるがな。
大昔に訪れた世界で見かけた「リトルフェアリル」の「フェアリル」とも違うようだ。


「[フェアリル?]妖精にも色んな種類がいるんですのね~」

「別の世界の人かー。だったら、[幻影帝国]のことは知らないよね?」

---恐らく先ほど私を襲った奴の組織のことなのだろうが、私の知り得る情報には存在しないな。

「そっか。[幻影帝国]は、今この世界を脅かしている悪い人達なの。」


---大方、侵略を目的とした敵組織なのは推測できる。
「人間の心」を依代にして怪物を生み出す力は、侵略にはうってつけの能力だろうしな。


「今私は、[幻影帝国]の幹部の『ブラックファング』…さっき襲ってきたあの怪物のことを探しているの。
何か少しでも有力な情報があればと思ったんだけど…」


---・・・そうだったのか。役に立てずに申し訳ない。

「謝らないで!むしろごめんなさい。
勝手に知ってると思って連れてきちゃって。
それに、何か辛そうな表情なのを見ていて気になっちゃったから・・」


---いや、私は今日この「地球」に来たばかりなんだ。
右も左もまだ分かっていない。
「地球」の情報が欲しかったから、むしろこちらが役に立っているよ。
「幻影帝国」、か・・・。

「シャリオちゃんは、どうして地球に来たの?」

---私はこの「地球」という星が、これからも文明を繁栄して栄え続けていくことが正しいのか否かを調査している。

「君は『神造調査員』だね。」

「『ブルー様』、『神造調査員』って何ですの?」


「この地球に僕のような『神』がいるように、世界の数だけ『神』がいる。
その『神』が他の世界を調査する時、自らが動かず変わりに他の世界を調査する役割の兵器がいると聞いたことがある。
彼女・・・えっと・・・」

「『シャリオ』ちゃん!」

「うん。『シャリオ』は、どこかの世界にいる『神』の使いとして、地球に派遣された調査員ということだね。」


---ご名答だ、地球の神『ブルー』。

「もし『シャリオ』ちゃんが、この地球は文明が繁栄され続けるべきじゃない、って判断されちゃったらどうなっちゃうの・・・?」


---私の仲間である『神造兵器』が一斉に召集され、この地球という星を破壊する。

「!!!!」


この言葉には、さすがの一同も驚いていた。

「そんな・・・でも!」


「『ゆうこ』、大丈夫だよ。」

「『神様』・・・」


「僕は『シャリオ』に、そんな判断はされないと思っているよ。
自慢ではないが、地球は素晴らしい星だ。
生きとし生ける物全てに愛があるのだから。
愛は、無敵だから。」


---愛・・・愛とは、なんだ?

「誰かを好きになる気持ち、みたいな?」


---私にはさっぱり理解できぬ感情だな。

「人間として生きていけば、きっと分かってくるかも?
人間なら、誰にでも持ち合わせてる感情だから♪」


ふむ・・・気になる事象だな。
まずはその愛について調査するところから、始めるとしよう。

~~

それから30分ほど、私と『大森ゆうこ』、そして『ブルー』『リボン』の3人と1匹で会話を続ける。

「幻影帝国」のことや、「幻影帝国」に立ち向かう伝説の戦士「プリキュア」のこと、世界の情勢のことなど2人と1匹は事細かく解説してくれた。

時刻は、22時を回りそうになっていた。

「『ゆうこ』、今日はもう遅い。
今は日本に帰ってきているという体になっているし、親御さんが心配するから帰ったほうがいい。
[クロスミラールーム]を自宅に繋げるよ」


「ありがとうございます『神様』!」

「『シャリオ』、君はこれからどうする?」


---しばらく、この東京という場所を色々と巡ってみようと思う。
君たちが欲する『ブラックファング』の動向も、掴めるかもしれないしな。
『ブルー』、改めてお話を伺いたいこともある。
またここに来ても構わないか?


「大丈夫だよ。」

「今度は美味しいお弁当持ってきてあげるね♪
今日は本当にありがとう、『シャリオ』ちゃん!
また一緒にお話してね!」


---こちらこそ、貴重な情報提供に感謝する。『大森ゆうこ』、『ブルー』、『リボン』。


「『ゆうこ』でいいよ~」

---・・・ゆ、『ゆうこ』。

「ありがとう、『シャリオ』ちゃん♪」

何故か、照れてしまった。

私は椅子から立ち上がり、帰路に着こうとした。

妖精の「リボン」が入口まで付いてきて、出迎えてくれた。

「今日はありがとうございましたわ、『シャリオ』。
『ゆうこ』は今自分の夢よりも[幻影帝国]との戦いを優先するようになって、辛い表情ばっかりしていたんですの。
でも、『シャリオ』と出会ったことで少し笑顔が戻ったように見えましたわ。」


---『リボン』、『ゆうこ』の夢とはなんだ?

「アイカツ、ですわ。」

・・・以上が、私と後の私のこれからに多大な影響を与えた『大森ゆうこ』との初めての出会いのお話だ。

~ぴかりが丘 川原~

大使館を後にした私は、拠点とする家をどうしようか迷っていた。

僅かに残っている「神力」を使い建造することは可能だが、下手な場所でそれをしてしまえば目立ってしまう危険性が高い。

かと言って、お金を持っていない私には家を借りたりすることも出来ないだろう。

ふむ。困った。

それに、人間と同じような肉体構造になってしまったからか、空腹にも耐えられなくなっているようだ。人間の体とは不便だな。

こうなったら、大使館でしばらく滞在するという手立てもあったかもしれない。

『お父様』よ、もっと下準備をした上での調査をしたかったぞ。

あまりにも状況が理不尽すぎないか?


・・・なんて文句を言ってもしょうがない。

~同場所~

「『お父様』、いましたよ。[神力レーダー]に映っていた『神造兵器』さん!」

「先程までレーダーに反応がなかったのは、大使館にいたからか。
あの場所は地球の神『ブルー』の管轄下。
常人を寄せ付けない結界が張ってあるからな。」


「私が接触しますか、『お父様』?」

「『イオちゃん』、いきなり力押しはまずくない~?」


「違うよ『キッカ』、さすがに出会い頭に攻撃はしないよ。
私を脳筋みたいに言わないで」


「え~だっていっつも出会い頭に関節技じゃない?」


「それは『お父様』を狙う刺客に対してだけだから!」


「・・・2人は待機だ。私が直接話に行く。」

「危険ですよ~」

「問題ない。戦いに行くわけではない。」


~~

一度大使館に戻り、『ブルー』に大使館を拠点にできないか相談を・・・ん?なんだ?

気づかぬ間に、私の目の前に『巨大な男』がいた。

気配すら察せられぬうちに接近とは、相当の手練と見て間違いない。

「お初にお目にかかる。君は[神造兵器]だな?」

一言、『男』は問う。

---そうだと言ったら?

「君のことをもっと知りたい。
手荒なことはしない。
もしよければ、私の屋敷に来てもらえないか?」


---お前は何者だ?


「私の名は、『真緑幻宗(まりょくげんそう)』。
四の王の血族を束ねる、長だ。」


~Continued to「The Beginning 3」~