「さぁ死ね。お前のような敗者に相応しい末路は死あるのみじゃ!」

あの悪夢のような「神魔大戦」が終わり、一週間という日が過ぎた。

私はあの戦いで、「魔」の長である『天魔王オメガ』との激闘の末に敗北。

神造兵器としての戦闘機能を7割以上失い、もう戦うこともままならない木偶の坊同然な程の重症を負った。

「『グランシャリオ』…ごめん。ごめんよ。私の手を持ってしても、君をもう完全に治すことは…」

『お父様』につきつけられる残酷な現実。

私の一億年ほどしてきたことがとうとう終わりを迎えた。

もう、兵器として生きることも叶わない。

こんな私が生きてる意味なんてあるのだろうか?

でも、『お父様』は私を殺すことはなかった。

「『グランシャリオ』。戦うことの出来なくなった君に、新たな任務を言い渡す。
今、監査中のとある惑星がある。
その惑星の文明を存続すべきか消滅させるべきか、見極めてほしいんだ。
君の新たな役目は『神造兵器』としての破壊ではない。
『神造調査員』としての、人間のような観察眼。
頼めるかな?」


私は『お父様』に文明を破壊する「神造兵器」から、文明を破壊すべきかどうかを調査する「神造調査員」としての役職を新たに頂いた。

まだ『お父様』のお役に立てる。だったら私はどんなことだって…!

---はい、やります。こんな私でもまだ貴方の役に立てるのであれば、なんだってします!

柄にもなく大きな声で、『お父様』に役に立てることの嬉しさを訴える。

「ありがとう、『グランシャリオ』。
君の行くべき場所は、世界番号0.424。
銀河系の第3惑星『地球』。
ワームホールは2時間後に生成する。
それまでに準備と、文明の知識を先行して入れておいてくれ。」


こうして私は、新たな戦いへと出向いた。

~2013年8月某日 地球~

私は2時間の間に可能な限りでこの世界の知識を詰め込み、この「地球」という星に訪れた。

訪れた場所は、「日本」という国。

最初ワープ座標が狂ってしまったようで、目標としていた「東京」ではなく「兵庫」の「朝来市」という場所に来てしまった。

それから数時間ほど待機してワームホールのエネルギーが再び充電された後、目的地であった「東京」にたどり着いた。

何もかも見たことも聞いたこともない場所を見るのはとても新鮮だ。

どうやら「東京」は「日本」の中でも一番大きな都市らしい。

この世界には興味深い様々な文化があるが、その中でもとりわけ興味を持ったのが「アイドル」という概念だ。

どうやら「アイドル」という存在は、一般人の中で憧れの対象となっている存在らしい。

私もかつて、「神造兵器」として様々な文明で「魔」と戦っていた頃は、後輩の「神造兵器」に憧れを抱かれたもの。

そんな自分と「アイドル」という存在を、重ね合わせていたようである。

アイドルに・・・私も、なってみたいな。

それはさておき、『お父様』には「神造兵器」ではなく一人の「人間」としての視点からこの世界を観察してほしいと言われた。

「人間」ではない私が「人間」になりきるというのは少し難しそうだが、それでも『お父様』から言い渡された任務。

絶対にこなさなければならない。

「人間」により近づくには何から始めたらいいのだろうか。

そういえば、ここに来る前に見た資料には「人間」には「家」という居住空間があると聞いた。

まずは「家」を作るとしよう。


自分の生きていく場所を作らなければならない。

…だが待て。「家」ってどうやって作るんだろう?

ああそうだ。これもまた資料に載っていた。

この世界では「通貨」と呼ばれる概念があると。

何かをしてもらうには対価を払わねばならない。

この世界における対価は「通貨」でまかり通っているようである。

で、その「通貨」を手に入れるには…

~~

…一体どれくらい思考を巡らせていたのだろうか?

気づけば明るかった周りも、月光が照り輝く夜に切り替わっていた。

時間にして10時間、私はその場でぼーっと立ち尽くし、「人間」になるにはどうするべきなのかを考えていたようだ。

初めからこんな調子で大丈夫なのか?

私は『お父様』の任務を遂行できるのか?

そもそもこの任務、私じゃなくてまだ動ける別の誰かがやったっていいのでは・・・?

こんな兵器としてろくに機能しない「私」に、この調査をする意味はあるのだろうか?


とても不安になってきた。


「っふ…今日の実験は突っ立っている『あの女』にするか。」


私がその声を聞いたときには、時すでに遅しであった。

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「鏡に映る未来を、最悪にしろ!」

この掛け声と共に、私の背後に迫る存在(人間とは異なる生命体のようだ)が手から蜘蛛の糸のようなものを展開し、私の体を絡め取る。

以前までの私ならば、刹那の見切りで愛刀「グランドクロス」によりその蜘蛛の糸を一瞬にして切り刻んでいただろう。

だが、今の私は「人間」としての観察眼を必要としている『お父様』の言葉のとおり、「人間」とほぼ同然の身体能力しかない。

そもそもの問題として、愛刀「グランドクロス」は『お父様』の下に預けているから手元にはなかった。

今私が持っているのは、神造兵器時代の隊長の証として『お父様』からもらったペンダントだけで、これも特別な何かがあるわけでもない。

いや、仮にあったところで今の全盛期の頃の3割の力しか出せない私に対処は出来たのだろうか…?

そんなifの妄想をしているうちに、私の体は一瞬にして蜘蛛の糸に取り込まれ、そこから新たな生命体を生み出してしまった。

「サイアーク!」と叫ぶその怪物は、まさに異形。

私が資料で見た「人間」とは似てもにつかない存在であった。

まるで、私がかつて戦っていた「魔」のような存在だ。

「おお、なんて強い力だ…!この『サイアーク』ならば、東京を瞬く間に焼け野原にすることも可能だ。なんて運の良い日だ。」

『サイアーク』と呼ばれる怪物は、私の愛刀「グランドクロス」に似たような形の剣を片手に持っていた。

剣を一振りすると、周りの建物は一瞬にして灰になった。

その光景を見た『サイアークを使役する存在』は高笑いし、破壊活動を続けていく。

---やめろ…やめてくれ…!

私は棺桶のような鏡の中に閉じ込められており、身動きが取れない。

そして私の体からエネルギーを吸い取られている様子を見るに、私の生命力が『サイアーク』に直接流れ込んで強化しているようだ。

こんなことになってしまったのは私の不注意からだ。

「地球」を観察するはずが、何者かの「地球」を破壊することに間接的に加担してしまっている。

『お父様』がこれを知ったらどれほど落胆してしまうだろうか。

嫌だ。『お父様』の役に立てない自分なんて、嫌だ。


私はどこへ行っても『お父様』の足でまといになってしまうのか?

それならいっそ私なんて死んでしまった方が・・・


そんな時だった。

「出てきたわね、『ブラックファング』!」

怪物に啖呵を切るその姿は、まるで天使のようだった。

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「来たな、『キュアハニー』。」

今日こそ貴方を倒す…!」

その時私から見えた光景は、天使と悪魔の聖戦さながらの激闘であった。

一体、この戦いはどうなってしまうんだ…?

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これは、「今」から63年前に起こった、兵器だった私が人となり、アイドルとなる物語である。

~Continued to「The Beginning 2」~