発売から少し経っちゃいましたが…

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堂々復活、ハイスコアガールッ!
今回はこのブログ史上初の漫画の感想書いていきますよー。

・概要&本作にまつわる背景の説明

「ハイスコアガール」は、押切蓮介先生作の2010年よりビッグガンガンにて連載されている漫画作品。
実在するゲームセンターやコンシューマのゲームのお話を中心に据えたラブコメ漫という斬新なジャンルが話題を呼び、連載初期の頃から大人気の作品でした。

筆者と本作の出会いなんですが、実は旧版単行本1巻発売時から本作の存在は知っていました。
が、絵柄にクセを感じて購入を渋ってしまいまして…。
続く旧版単行本の2巻の発売時に、帯に描かれている「ストリートファイター」のガイルに興味を惹かれたことから「絵は苦手だが2巻くらいまでなら…」という気持ちで購入。
帯を見た時の印象としてついた「ストリートファイターで対戦する人間を描いた物語なんて面白そう!」という部分がゲーム好きの筆者には絶好の題材だったわけですね。
ここからは感想になっちゃうんで後で詳しく述べますが、単純なゲームをする漫画ではない独自の魅力に虜にされ絵が苦手だったなんて言っていたのが嘘だったかのよう押切蓮介先生の作品をほぼ全て買い集めてしまうレベルでハマりにハマったとても大好きな作品です。

筆者のように共感した読者が多かったからかたちまち話題になり、単行本が5巻まで刊行した段階でアニメ化までも決まって順風満帆であった本作・・・でしたが。
アニメ化が決まった段階で、まさかの「連載中止」「単行本絶版」という大問題に発展します。

人気漫画に他社のゲームキャラが…ドラクエの「スクエニ」を著作権侵害容疑で捜索 大阪府警

本作は「ストリートファイター」を始め数多くのゲーム作品やキャラクターが登場するのですが、なんと本作と公式でコラボしたナムコ(現バンダイナムコ)・カプコン以外は一切使用許可を得ずに無断で作品及びキャラクターを使用していたという前代未聞の著作権侵害が発覚してしまいます。

これを見てください。

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毎度の単行本の巻末に記載されている、いはいる「スペシャルサンクス」に相当するものです。
これを書いているのだから作品やキャラの使用は許されているのでは…と思うかもしれません。
実際には、この漫画ではこのページに記載されている会社の作品を取り扱ったよー…というのを表示しているだけで実際に許可を得ているわけでも何でもないんで何の意味もないわけです。
それっぽく「許可を得たように」演出して読者を騙していたとも取れる最悪の手法だったわけですね。

訴えたのは、2巻以降でメインの作品に取り扱われる機会が多いSNK(現SNKプレイモア…と言いたいところですが、正確にはSNKの後任ではなく別の会社が名前だけ買い取った扱いなので全く別の会社です。現在SNKの版権を持っている会社、というのが適切でしょうか。) でした。その後も各ゲーム会社やクリエイターから、

「勝手に使われて厳重注意した」
「指摘したら後日謝罪の手紙が来た」

などの報告が相次ぎ、スクエニ編集部による
著作権の軽視が露呈した事件になってしまいました。
この事件に関しては、筆者の意見を書くならば編集部をはじめとしたスクエニの雑さと不誠実な対応が一番許せませんが騒ぎに乗じてうちもうちもと叩きだしていたゲーム会社やゲームクリエイター達の様子には実にネットの悪い習性だよなぁ・・・という何とも言えない地獄絵図を見ているような気持ちでした。
この件に関しては色々と言いたいことはあるのですが、今回は感想がメインですのでこの問題に関してはこれくらいで触れるのをやめまして。

「ハイスコアガール」連載再開・コミックス発売決定のお知らせ | ビッグガンガン | SQUARE ENIX

細かい事情は一般人には分かりませぬが、SNKプレイモアとスクエニの間で2年越しに無事和解が成立。



絶版になった単行本5巻分は「CONTINUE」と改題した新装版でまとめて5巻分まで刊行し、同時に最新刊である第6巻も発売したことで、再始動に至りました。

あれだけの人気に大事件の発展によって「続きを読むことは絶望的」だと誰もが思っていたでしょうが、2年という期間をかけて復活してくれました。
これは、押切先生という人間の人柄と、猛省したスクエニと頭を冷やしたSNKプレイモアによる奇跡の産物といっていいほかありません。
まずは、一読者ファンとして復活してくれたことを喜びたいです。
そして、こんなことが二度と起きないように著作権に関しては厳重な審査が必要だという反面教師になってくれた・・・とポジティブに解釈したいですね。

・旧版との変更点

新装版刊行に至り、SNKプレイモアを始めとした各会社の厳重なチェックが入ったのか当然内容には大きな変更が加えられています。
全ての修正点を挙げるのはキリがないので主な部分だけ書くと、

・SNKのゲームに関するシーンは全面改訂

→旧版では主に作品のキーポイントとなっていた「龍虎の拳」「ザ・キング・オブ・ザ・モンスターズ」なども1ページだけの紹介と言った具合に修正され、メインの作品から「たくさん紹介される作品の1つ」程度の扱いに。
この2作は旧版では存在感のあるタイトルだっただけに、大筋こそ変わらないものの全くの別の物語になっていましたね。
ちなみに、新装版においてもSNKのゲームでしっかりと話題に据えられていたのは第6巻までの時点で「サムライスピリッツ」(及び続編の「真・サムライスピリッツ 覇王丸地獄変」)と「THE KING OF FIGHTERS 95'」(及び外伝の「ザ・クイズ・キング・オブ・ファイターズ)の2作のみ。

・版権元が複雑あるいは不明などといったしっかり許諾を得られなかったと思われる作品は、他のゲームに差し替えあるいはゲーム名の記述のみに留まっている

一番分かりやすいのが第2巻旧版だと「ジェラシックパーク」のお話だったのが第2巻新装版で「アウトランナーズ」に改変されていた部分。読み比べると
全く内容が違います。
もそも前者はSTGで後者はレースゲームだから当然といえば当然なのですが。

また、第2巻で日高さんが気になるゲームの中で挙げていた作品が旧版だと「スウィートホーム」「セプテントリオン」「弟切草」の3本だったのが、新装版だと「スウィートホーム」が抜けていたりもしました。

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この作品は許諾云々以前に、原作の映画が訴訟問題に発展している曰くつきの作品なので、本作で掲載どころの話ではないんでしょうね旧版の無謀っぷりが伝わる修正だ
主な修正内容はSNK関連の作品ではありましたけど、読み比べてみるとそれ以外の会社の作品も消えていたり差し替えられたりのオンパレードでした。

特筆して書きたいのはこれくらいかな。
「修正が多すぎて旧版と全くニュアンスが違うからつまらなくなった」という意見もネット上では見ましたが、つまるつまらない以前に著作権を侵害している時点で作劇としてはアウトなのだからそんな無茶を言ってもしょうがないでしょう。
何より、この変更点に関しましてはぶっちゃけ知らなければ何にも問題はありません
不自然に感じた差し替え部分はありませんでした。
大筋はそこまで変わっていないけどゲームを変えても作劇としてしっかり成り立っているあたり、いかに修正の構想に時間をかけたのか、修正作業に時間をかけたのか・・・という押切先生の労力を筆者は高く評価したいですね。

・感想 

長くなりましたが本題に入りましょう。

本作最大の魅力は、「ゲーム」という要素が単なる娯楽としての側面だけでなく、登場人物の心情描写人間関係を繋ぐ絆という重要な要素として落とし込められていることだと考えます。

現実の年代に沿って登場するゲーム達を遊ぶ登場人物たち。
当時ゲームセンターで遊んでいた読者が読めばそれを「懐かしさ」として感じることが出来るくらい史実に忠実です。
しかし、本作におけるゲームという存在がただ単に出てきておしまい、やっておしまい・・・という枠には収まらないほどに大きな存在です。
先ほど記述しました「ストリートファイター」ガイルも、主人公のハルオの持ちキャラとして登場したことを縁に様々な場面でハルオの心を励ます良きパートナーとして登場。

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俗語である「待ちガイル」という単語も本作では頻繁に登場します。
他にもハルオを激励するキャラクターに

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「源平討魔伝」
安駄婆や、

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ヒロインの大野さんの持ちキャラである「ストリートファイター」ザンギエフ・・・と、挙げればキリがないほどに心理描写にはゲーム作品のキャラクター達が所狭しと登場します。

また、史実のネタを作品の重要な要素として描いている様もさすがの一言。

例えば、本作のキーポイントである「ストリートファイター2」は、様々なマイナーチェンジが出たことでおなじみです。
2→2ターボ→(レインボー)→2ダッシュ→スーパースト2→2X…という順番で発表されました。
対して本作では、ヒロインにしてハルオ最大のライバルの大野さんが転校してしまうわけですが、そこから再会するまでの最中に上記のスト2マイナーチェンジが続いていきます。
スーパースト2を遊ぶハルオのプレイを見ている友達の宮尾は「いつになったらスト3は出るんだ?」というツッコミをするのですが、それに対してハルオの答えが、
「大野との再戦をスト2が待ってくれているからスト3は出ないんだ」
というものでした。
スト2がいつまでたっても新作が出ないことに対するネタを本編の内容に上手く落とし込めているというわけですね。
ほかにも、スト2と3の間に発表された「ストリートファイターZERO」に対しては、高校受験を失敗しやさぐれてセガサターンを遊ぶ引きこもりになってしまったハルオゲーセンの格ゲープレイヤーとして復帰作に選ぶのですが、「0からやり直す俺に相応しい作品だ・・・!」というセリフが入ります。
うまい!ゲームと作品の心情描写のリンク具合が本当に半端ではありません。ゲームを紹介する、遊んでる様子を描いている。それには収まらないほどに重要な位置づけにゲームという要素があるわけなんです。

そして、ゲームとは一見無縁そうに見える「ラブコメ」の要素とうまく合致しています。
本作はゲームを軸にハルオ大野さん・第2部から登場するハルオの近所の家に住む同級生の日高さんによる三角関係を中心としたラブコメが実はメインのお話です。
ハルオは最初は自らの遊び場を邪魔する厄介者として天才的なプレイヤースキルを持つ大野さんを嫌っているわけですが、次第と一緒にゲーセンで遊んでいるうちに友情の絆が芽生えました
そして大野さんは家の事情で海外に転校してしまうのですが、その間の第2部においてハルオが出会ったのが日高さん。
大野さんとは異なり腕前はてんで素人でゲームに興味のない日高さんにハルオはゲームを教え、いつしか師弟関係のようになっていきます。
「格ゲーはイーアルカンフーからやり直せ!」という発言も最初は格ゲー素人の日高さんに対しハルオが放っていた暴言なのですが、後に第3部となって格ゲーを嗜むようになった日高さんがハルオをボコボコにした時に同じセリフを吐くシーンは実に印象的です。
日高さんがゲームを好きになっていったのはハルオが好きだから。ゲームが大好きなハルオと両想いになるため、自分もゲームを心から好きになって気を引こうと考えての行動なのです。なんだこの子可愛すぎじゃないか!
この後に大野さんが日本へ帰国してハルオの元にまた現れるわけですが、ここからはハルオを巡った恋物語が始まります。
旧版で最終巻である第5巻では、日高さんがハルオに「格ゲー3本勝負して勝ったら付き合って」という一世一代の最大の勝負の幕開け前に絶版となってしまうという悲劇に見舞われますが、2年越しの第6巻ではその続き及び結末を見ることができて感動の涙が・・・( ;∀;)

作中でハルオはただのゲームバカとして変人扱いされていますが、本質はそうじゃないからこそこれだけの物語が生まれているというのも面白いですね。主人公としての魅力がちゃんとあります。
確かにゲーム大好きすぎて常識のないアホではあるんですが、根底はとても優しくて情熱的です。
そんなハルオにゲームを通じて異なる視点で絆が芽生えた大野さんと日高さんが彼に惹かれる様は納得だし、ハルオというキャラクターはそれだけ素敵な人物であると思わせるだけのものがあります。
ゲームをネタにして一本の漫画を描くだけでなく、ラブコメの駆け引きに使うセンスは、もはやゲーム好き以上の愛がなければ無理でしょう。
押切蓮介という漫画家の実力と、ゲームへの愛によって出来上がった素敵な物語なのです。

古いゲームの名前を使ったゲーム紹介漫画というだけでなく、友情ラブコメ・そしてバトル(格ゲーを通じた)ありと王道要素がこれでもかと詰まっていてかつ独自の雰囲気を作り上げている。
人気が出たのもの納得だし、常に読んでいて先が気になってしまいますね。
著作権絡みで笑い話では済まない大問題に発展してしまったことが本当に残念で悪いイメージがついてしまったことスクエニほんとふざけんなファンとして悲しい気持ちでいっぱいです。
しかし、こうしてまた陽の目に浴びて復活するだけの価値のある素晴らしい作品であると筆者は訴えたいです。
封印作品にするにはあまりにも惜しい。だからこそ復活に尽力してこうして形になったのでしょう。
新装版として改めて読み直しても面白かったですし、最新刊である第6巻も感動ものでした゚゚(゚´Д`゚)゚

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第6巻でとあることの1つの区切りは付いたものの、お話はまだまだ続く模様。
先が気になってしょうがないです。ビッグガンガンを毎月買おうかと迷ってしまうレベル。
筆者の特に好きで思い入れのある漫画作品としてイチオシしたい。是非読んで見てほしい!

というわけで今回はここまでです。次回の第7巻発売の来年の2月が待ち遠しいな~(*´∀`*)